The Modelとは?インサイドセールスの位置づけを図解で理解
「The Model(ザ・モデル)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。近年、BtoB企業の営業組織において急速に注目を集めているこの概念は、インサイドセールスを立ち上げる上で避けて通れない重要なフレームワークです。
しかし、「名前は知っているが、具体的に何を指すのか分からない」「自社に導入できるのか判断がつかない」という声も少なくありません。
本記事では、The Modelの基本構造から、インサイドセールスが果たす役割、そして導入時に押さえるべきKPI設計まで、図解を交えて体系的に解説します。インサイドセールス立ち上げを成功させるための土台となる知識を、ここでしっかりと身につけていきましょう。
The Modelとは?─ BtoB営業を変革した分業モデルの全体像
The Modelの定義と誕生背景
The Modelとは、BtoB営業のプロセスを「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つの部門に分業化し、各プロセスの数値を可視化・管理することで売上の最大化を目指す営業組織モデルです。
このモデルは、米国Salesforce(セールスフォース・ドットコム)が自社の急成長を支えた営業手法として実践し、体系化したものです。日本においては、セールスフォース・ドットコム日本法人の元専務執行役員である福田康隆氏が、著書『THE MODEL』(翔泳社刊)で詳細に解説したことで広く知られるようになりました。
近年、SaaS企業やBtoBビジネスを展開する企業でThe Modelが注目される背景には、以下のような市場環境の変化があります。
- 購買プロセスの変化:顧客がWebで情報収集を完結させる時代になり、従来の訪問営業だけでは対応しきれなくなった
- サブスクリプションモデルの普及:継続契約が前提のビジネスでは、新規獲得だけでなく顧客維持が重要になった
- データ活用の進展:CRMやMAツールの普及により、営業活動の数値化・分析が容易になった
従来の営業組織とThe Modelの決定的な違い
従来の営業組織とThe Model型組織の違いを整理すると、その変革の本質が見えてきます。
| 項目 | 従来の営業組織 | The Model型組織 |
| 業務範囲 | 一人の担当者がリード獲得から受注・フォローまで全て担当 | 4部門で分業し、各プロセスに専門特化 |
| 成果の再現性 | 個人のスキル・経験に依存(属人的) | プロセスの標準化により再現性を確保 |
| 課題の特定 | どこで問題が発生しているか把握しにくい | 数値管理により、ボトルネックを可視化 |
| スケーラビリティ | 優秀な営業担当者の採用・育成に時間がかかる | 役割分担により、人材育成を効率化 |
従来型では「なぜ売れないのか」「どこに問題があるのか」を特定することが困難でした。一方、The Model型では各フェーズの数値を追跡することで、改善点を明確に把握できます。
この分業体制によって、各担当者は自身の専門領域に集中でき、結果として組織全体の生産性と成果が向上するのです。
The Modelを構成する4つの部門と役割
The Modelは、以下の4つの部門で構成されています。それぞれの役割と責任範囲を理解することが、インサイドセールス立ち上げの第一歩です。
- マーケティング
- マーケティング部門は、見込み顧客(リード)の獲得を担います。Webサイト、オンラインセミナー、イベント、コンテンツマーケティングなど、さまざまな施策を通じてリードを集め、インサイドセールスに引き渡します。
- 主なKPI:リード獲得数、MQL(Marketing Qualified Lead)数
- インサイドセールス
- インサイドセールスは、マーケティングが獲得したリードに対して電話やメールでアプローチし、ニーズの確認・育成を行います。確度の高い見込み顧客を選別し、商談としてフィールドセールスに引き継ぐ役割を担います。
- 主なKPI:架電件数、接触率、商談化率、SQL(Sales Qualified Lead)数
- フィールドセールス
- フィールドセールスは、インサイドセールスが創出した商談を担当し、提案・クロージングを通じて受注を獲得します。顧客の課題を深くヒアリングし、最適なソリューションを提案する専門性が求められます。
- 主なKPI:商談数、受注率、受注金額、案件進捗
- カスタマーサクセス
- カスタマーサクセスは、受注後の顧客に対して継続的な支援を行い、契約の継続やアップセル・クロスセルを実現します。顧客の成功体験を創出することで、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目指します。
- 主なKPI:継続率、解約率、アップセル率、NPS
The Modelの基本構造とプロセスの流れ
The Modelの4部門は、以下のような流れで連携しています。
![[マーケティング] → [インサイドセールス] → [フィールドセールス] → [カスタマーサクセス]
↓ ↓ ↓ ↓
リード獲得 商談創出 受注獲得 継続・拡大
↓ ↓ ↓ ↓
MQL数 SQL数・商談数 受注数・金額 継続率・LTV](https://salesgrid.biz/wp-content/uploads/2025/12/image-6-1024x459.png)
このプロセスの特徴は、各部門間で明確な「引き継ぎ基準」が設定されていることです。たとえば、マーケティングからインサイドセールスへの引き継ぎでは「どのような条件を満たしたリードをMQLとするか」が定義されています。
この数値連鎖の考え方が、The Modelの核心です。最終的な売上目標から逆算して、各フェーズで必要な数値を算出し、管理していきます。
The Modelにおけるインサイドセールスの位置づけ
なぜインサイドセールスが「組織の要」と呼ばれるのか
The Modelの4部門の中で、インサイドセールスは「組織の要」と呼ばれることがあります。その理由は、インサイドセールスがマーケティングとフィールドセールスを繋ぐ中間地点に位置し、組織全体のパフォーマンスを大きく左右するからです。
具体的には、以下の3つの観点からインサイドセールスの重要性が説明できます。
- リードの質を見極める「フィルター」機能
- マーケティングが獲得するリードには、すぐに商談化できる見込み顧客もいれば、まだ情報収集段階の顧客もいます。インサイドセールスは、このリードの確度を見極め、フィールドセールスに渡すべき案件を選別します。この判断精度が、フィールドセールスの生産性と受注率を決定づけます。
- パイプライン全体の効率を決める「エンジン」機能
- インサイドセールスの商談創出数が不足すれば、フィールドセールスは動けません。逆に、質の低い商談を大量に渡せば、フィールドセールスの時間が無駄になります。インサイドセールスは、質と量のバランスを取りながら、パイプライン全体の効率を最適化する役割を担います。
- 顧客インサイトを収集する「アンテナ」機能
- インサイドセールスは、日々多くの見込み顧客と接触します。この活動を通じて得られる顧客の悩み、ニーズ、市場の変化などの情報は、マーケティング施策の改善やプロダクト開発にとって貴重なインサイトとなります。
インサイドセールスが担う3つの核心業務
インサイドセールスの業務は多岐にわたりますが、核心となるのは以下の3つです。
1. リードクオリフィケーション(見込み顧客の選別)
マーケティングから引き継いだリードに対して、電話やメールで接触し、以下のような情報を確認します。
- 課題・ニーズの有無と緊急度
- 予算の有無・規模感
- 導入検討の時期・タイミング
- 決定権者・意思決定プロセス
これらの情報を基に、リードをスコアリングし、商談化すべきか、継続的な育成が必要か、対象外かを判断します。
2. ナーチャリング(顧客育成と関係構築)
すぐには商談化しないリードに対しては、継続的なフォローを行います。有益な情報提供やセミナーへの招待などを通じて関係を構築し、購買意欲が高まったタイミングで再度アプローチします。
このリードリサイクルの仕組みがあることで、一度は商談化しなかったリードも、将来的な商談機会として活かすことができます。
3. 商談設定とフィールドセールスへの引き継ぎ
確度の高いリードに対しては、アポイントを獲得し、フィールドセールスに引き継ぎます。この際、単に日程調整をするだけでなく、ヒアリングした情報を整理して共有することが重要です。
引き継ぎの質が、その後の商談の成功率を大きく左右します。
The Model内でのインサイドセールスの立ち位置
インサイドセールスを中心とした情報の流れを可視化すると、以下のようになります。
![[マーケティング]
↓
リード情報・行動データ
↓
┌─────────────────────┐
│ インサイドセールス │
│ │
│ ・リード選別 │
│ ・ニーズ把握 │
│ ・育成・フォロー │
│ ・商談設定 │
└─────────────────────┘
↓
商談情報・顧客インサイト
↓
[フィールドセールス]](https://salesgrid.biz/wp-content/uploads/2025/12/image-7-1024x334.png)
インサイドセールスが管理すべき主要なKPIは以下の通りです。
| KPI | 定義 | 目安 |
| 架電件数 | 1日あたりの電話発信数 | 50〜80件/日 |
| 接触率 | 架電に対して担当者と会話できた割合 | 20〜30% |
| 商談化率 | 接触リードから商談設定に至った割合 | 10〜20% |
| SQL数 | フィールドセールスに引き継いだ商談数 | 月間目標による |
これらの数値を日次・週次でチェックし、ボトルネックが発生している箇所を特定することで、継続的な改善が可能になります。
The Model導入で押さえるべきKPI設計と運用のポイント
部門別KPIの設計思想と数値連鎖の考え方
The Modelを効果的に運用するためには、各部門のKPIを「数値連鎖」の観点から設計することが重要です。
数値連鎖とは、最終的な売上目標から逆算して、各フェーズで必要な数値を算出する考え方です。以下に具体例を示します。

このように逆算することで、インサイドセールスが追うべき具体的な目標が明確になります。
各部門が追うべきKPIを整理すると以下のようになります。
| 部門 | 主要KPI | 補助KPI |
| マーケティング | リード獲得数、MQL数 | チャネル別獲得数、獲得単価 |
| インサイドセールス | SQL数、商談化率 | 架電件数、接触率、アポ獲得数 |
| フィールドセールス | 受注数、受注金額 | 商談数、受注率、案件進捗 |
| カスタマーサクセス | 継続率、アップセル率 | NPS、解約理由分析 |
The Model運用でよくある課題と解決アプローチ
The Modelを導入しても、うまく機能しないケースがあります。よくある課題と解決アプローチを整理しました。
課題1:部門間の分断・情報共有不足
分業体制を敷いた結果、部門間のコミュニケーションが減り、「サイロ化」が発生することがあります。
解決アプローチ:
- 定期的な部門横断ミーティングの実施
- CRMを活用した顧客情報の一元管理と共有
- 引き継ぎ基準の明文化とフィードバックループの構築
課題2:KPIの形骸化
数値を追うことが目的化し、本来の成果につながらない「数字のための数字」になってしまうことがあります。
解決アプローチ:
- KPIと最終目標(売上・顧客成功)の関連性を常に意識
- 週次・月次でのレビュー体制を構築し、PDCAを回す
- 数値の背景にある「なぜ」を分析する文化の醸成
課題3:引き継ぎの質のバラつき
インサイドセールスからフィールドセールスへの引き継ぎ情報が不十分で、商談の質が低下することがあります。
解決アプローチ:
- 引き継ぎメモのテンプレート化
- 必須ヒアリング項目(BANT情報など)の標準化
- フィールドセールスからのフィードバックを定期的に収集
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CRM・MA・SFAなどツール活用による効率的な運用
The Modelを効率的に運用するためには、適切なツールの活用が欠かせません。代表的なツールと活用方法を紹介します。
CRM(Customer Relationship Management)
Salesforce、HubSpotなどのCRMは、顧客情報を一元管理し、営業活動の履歴を記録するための基盤です。The Model運用においては、部門間の情報共有と進捗管理のプラットフォームとして機能します。
MA(Marketing Automation)
マルケト(Marketo)、Pardotなどのマーケティングオートメーションツールは、リードの行動データを収集し、スコアリングを自動化します。インサイドセールスは、このスコアを参考にアプローチの優先順位を決定できます。
SFA(Sales Force Automation)
営業支援システムであるSFAは、商談の進捗管理や売上予測を支援します。フィールドセールスの活動を可視化し、マネジメントの意思決定に必要なデータを提供します。
これらのツールを連携させることで、リードから受注、そしてカスタマーサクセスまでの一貫したデータ管理が実現します。
日本でThe Modelを導入する際の注意点
The Modelは米国発のモデルであり、日本企業が導入する際にはいくつかの注意点があります。
- 組織文化・商習慣への適応
- 日本企業には、「顧客との長期的な関係構築を重視する」「一人の担当者が責任を持って対応する」といった文化があります。The Modelの分業体制を導入する際は、顧客体験を損なわないよう、部門間の連携を特に意識する必要があります。
- 「形だけの分業」への注意
- 組織図上で4部門を分けただけでは、The Modelは機能しません。各部門のKPI設計、引き継ぎ基準の明確化、ツールによるデータ管理など、運用面の整備が不可欠です。
- 人材育成の重要性
- インサイドセールスは比較的新しい職種であり、経験者の採用が難しい状況です。社内で育成する体制を構築し、スキルマップや研修プログラムを整備することが成功の鍵となります。
自社に最適なThe Model導入のフレームワーク
The Modelを自社に導入する際の基本的なステップを整理します。
- 現在の営業プロセスと数値を可視化
- ボトルネックとなっている箇所を特定
- 既存の人材・ツール・リソースを棚卸し
- 売上目標から逆算した各フェーズの数値目標を設定
- 部門別のKPIと達成基準を定義
- 短期(3ヶ月)・中期(1年)のマイルストーンを設定
- 各部門の役割と責任範囲を明確化
- 必要な人材の採用・配置
- ツールの選定・導入
- 週次・月次でのレビュー体制を構築
- PDCAサイクルを回し、継続的に改善
- 成功体験を共有し、組織全体の成熟度を高める
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まとめ
本記事では、The Modelの基本構造とインサイドセールスの位置づけについて解説しました。重要なポイントを振り返ります。
The Modelとは:
- BtoB営業プロセスを4部門(マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセス)に分業化
- 各プロセスの数値を可視化・管理し、売上の最大化を目指すモデル
- Salesforceが実践し、福田康隆氏の著書で日本に広まった
インサイドセールスの位置づけ:
- マーケティングとフィールドセールスを繋ぐ「組織の要」
- リードの選別・育成・商談創出を担い、パイプライン全体の効率を決定
- 顧客インサイトを収集し、組織全体の改善に貢献
導入のポイント:
- 数値連鎖の考え方でKPIを設計
- 部門間の連携と情報共有を重視
- 形だけの分業に陥らず、運用面の整備を徹底
The Modelの理解は、インサイドセールス立ち上げの出発点です。この土台の上に、具体的な業務設計、KPI管理、人材育成などを積み上げていくことで、再現性のある営業組織を構築できます。
よくあるご質問
質問:The Modelは中小企業でも導入できますか?
回答:The Modelは中小企業でも導入可能です。ただし、最初から4部門を完全に分ける必要はありません。多くの中小企業では、マーケティング担当者がインサイドセールス業務を兼務したり、営業担当者がインサイドセールスとフィールドセールスの両方を担当したりする「スモールスタート」から始めています。成果が出始めた段階で、段階的に専任化・分業化を進めていくアプローチが現実的です。重要なのは、分業の形式ではなく、各プロセスのKPIを設計し、数値を可視化して管理するという考え方を取り入れることです。
質問:The Modelを導入する際に最初に整備すべきツールは何ですか?
回答:最初に整備すべきはCRM(顧客関係管理システム)です。SalesforceやHubSpotなどのCRMは、顧客情報の一元管理、営業活動の記録、部門間の情報共有の基盤となります。The Modelでは、リードから商談、受注、カスタマーサクセスまでの一貫したデータ管理が重要であり、CRMがないと各フェーズの数値把握や分析ができません。MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)は、CRMとの連携を前提に、必要に応じて追加導入していくのがおすすめです。
質問:インサイドセールスの商談化率の目安はどのくらいですか?
回答:インサイドセールスの商談化率(接触したリードから商談設定に至った割合)の目安は、一般的に10〜20%程度です。ただし、この数値は業界、商材、リードの質、アプローチ手法などによって大きく変動します。インバウンドリード(問い合わせ経由)は商談化率が高く、アウトバウンドリード(こちらからのアプローチ)は低くなる傾向があります。重要なのは、自社の現状数値を把握し、継続的に改善していくことです。最初は数値が低くても、トークスクリプトの改善やリードの質向上によって、徐々に向上させることができます。
質問:The Modelの4部門間で対立が起きた場合、どう対処すべきですか?
回答:部門間の対立は、The Model運用においてよく発生する課題です。典型的なのは「インサイドセールスが渡す商談の質が低い」「フィールドセールスがフォローしてくれない」といった相互の不満です。対処法としては、まず引き継ぎ基準を明文化し、双方が合意した定義に基づいて運用することが重要です。また、定期的な部門横断ミーティングでフィードバックを共有し、お互いの状況や課題を理解する場を設けましょう。KPIについても、部門個別の数値だけでなく、最終的な売上や顧客成功といった共通目標を設定することで、対立ではなく協力の関係を構築できます。
質問:The Model導入後、成果が出るまでにどのくらいの期間がかかりますか?
回答:The Model導入後、成果が出るまでの期間は、企業の状況や導入の進め方によって異なりますが、一般的な目安は3〜6ヶ月程度です。最初の1〜2ヶ月は体制構築とオペレーションの確立期間であり、数値が安定するまでに時間がかかります。3ヶ月目以降から徐々にKPIの改善傾向が見え始め、6ヶ月を過ぎる頃には、PDCAサイクルが回り始めて継続的な成果向上が期待できます。ただし、最初から完璧を目指すのではなく、「まず始めて、走りながら改善する」というスタンスが重要です。小さな成功体験を積み重ねながら、組織全体の成熟度を高めていきましょう。

