SPIN営業とは?4つの質問で顧客の課題を引き出し、商談を前に進める方法

商談の場で「一生懸命説明したのに、反応が薄かった」「提案書まで出したのに、その後連絡が途絶えた」という経験はありませんか。
課題ヒアリングはしたつもりなのに、なぜか提案が刺さらない。「何を聞けばいいかわからない」のではなく、「聞いたつもり」で止まっている──そんな状態に心当たりがある方は、少なくないはずです。
こうした状況を変えるための方法として、この記事ではSPIN営業を紹介します。SPINは「何を話すか」ではなく「顧客に何を考えてもらうか」を設計する質問の型です。4種類の質問を順に使うことで、顧客自身が課題の構造と解決の必要性に気づくプロセスを作れます。
商談全体の設計方法については商談プロセスの設計手順と管理のポイントで解説していますので、あわせて参考にしてください。この記事では、その中でも特に課題ヒアリングから提案への橋渡しにフォーカスして、SPINの実践的な使い方を解説します。
なぜ「聞いたつもり」で終わってしまうのか── 3つの構造的な原因
「ちゃんとヒアリングしたのに提案が通らない」。この問題の原因は、質問の仕方そのものに構造的な偏りがあるケースがほとんどです。
① 状況の確認で時間を使いすぎている
「御社の営業体制は?」「使っているツールは?」──こうした状況確認の質問ばかりが続くと、顧客は「この人、調べてから来ればいいのに」と感じます。状況質問は商談のウォーミングアップですが、ここに時間をかけすぎると、本題に入る前に顧客の集中力が切れてしまいます。
② 課題を聞いたけれど「浅い」
「何かお困りのことはありますか?」と聞いて、「まあ、入力が面倒ですね」と返ってきた。その答えをそのまま持ち帰って提案書を作る──これが「聞いたつもり」の典型です。表面的な不満を聞いただけでは、課題の構造は見えていません。なぜ面倒なのか、それが放置されるとどうなるのか、ここまで深掘りして初めて「課題を聞いた」と言えます。
③ 解決策の価値を営業が「説明」してしまう
「当社のツールを導入すると、入力工数が50%削減できます」──営業としてはアピールしたいポイントですが、これだと顧客にとっては「営業の売り文句」です。顧客が自分自身の言葉で「これが解決したら○○が変わる」と語れる状態を作れていないと、提案は「検討します」で止まります。
35,000件の商談を分析したラッカムの研究でも、成約率が高い商談では営業の説明量ではなく、顧客の発言量が多いことが示されています。つまり、提案が通らない根本原因は「話し方」ではなく「聞き方の設計」にあるのです。
SPIN── 4つの質問で商談を前に進める型
SPINは、4種類の質問をS → P → I → Nの順に使い分ける質問フレームワークです。「このフレームワークの存在は知っている」という方も多いかもしれませんが、大切なのは4つの質問がなぜこの順番なのかを理解することです。
答えはシンプルで、顧客の内面の変化に合わせているからです。
S(状況質問) :顧客の現状を確認する → 会話の土台を作る
↓
P(問題質問) :漠然とした不満を「課題」として言語化させる
↓
I(示唆質問) :課題を放置した場合の影響を顧客自身に考えさせる
↓
N(必要質問) :解決後の姿を顧客の言葉で描かせる → 提案の受け皿ができる
この流れは、顧客の検討段階の進行と対応しています。
| 顧客の内面 | SPINの質問 | 質問の役割 |
|---|---|---|
| 「何かうまくいっていない気がする」 | S(状況質問) | 現状を言語化し、違和感の輪郭を明確にする |
| 「この部分が問題だ」と特定できた | P(問題質問) | 漠然とした不満を「課題」として構造化する |
| 「このままではまずい」と行動意欲が生まれた | I(示唆質問) | 放置した場合の影響を具体化し、緊急性を生む |
| 「この解決策なら自社に合いそうだ」 | N(必要質問) | 解決後の姿を自分の言葉で語り、「自分ごと」にする |
つまりSPINは、「質問テクニック」ではなく「顧客の検討フェーズを前に進める装置」なのです。
S → P → I → N、それぞれの質問の使い方
ここからは、各質問タイプの実践的な使い方を解説します。BtoB営業のリアルな場面を想定した質問例を紹介しますので、自社の商材に置き換えて使ってみてください。
S(状況質問)── 仮説検証型にすることで、最小限に絞る
状況質問は商談の入り口です。ただし、ここに時間をかけすぎるのが、先ほど触れた「構造的な偏り①」です。
ポイントは、事前リサーチに基づいた仮説を検証する形で質問すること。「何でもかんでも聞く」のではなく、「こうではないですか?」と投げかけて確認する。これだけで「よく調べてくれている」という印象に変わります。
| 場面 | 避けたい質問 | おすすめの質問 |
|---|---|---|
| 商談管理の現状 | 「どうやって商談管理していますか?」 | 「Excelで商談管理されている企業が多いのですが、御社ではいかがですか?」 |
| チーム体制 | 「営業チームは何名ですか?」 | 「10名前後の組織だと管理が属人化しやすいと聞きます。御社の体制はいかがですか?」 |
| 既存ツール | 「何かツール使ってますか?」 | 「SFAを導入済みでも入力が定着しないという声をよく聞きます。御社の運用状況は?」 |
目安として、状況質問は2〜3問に絞るのが理想です。事前にIR情報やニュースを15分確認するだけで、不要な状況質問を減らせます。
P(問題質問)── 表面的な不満を「課題の構造」に変える
問題質問の目的は、顧客に「自分の課題は何か」を言語化してもらうことです。大切なのは、最初の回答で満足せず、「なぜそうなっているのか」を一段深く聞くこと。
【深掘りの流れ】
「データ入力が面倒です」(表面的な不満)
↓
「具体的にはどの部分が面倒ですか?」→「項目が多い」「同じ情報を2回入力する」
↓
「入力が滞ると、何が困りますか?」→「データが溜まらないので、マネージャーが判断できない」
↓
「判断ができないと、チーム全体にどんな影響が出ていますか?」
この「なぜ → その結果 → さらにその影響」の3段階で聞くと、顧客自身が「入力の手間」ではなく「意思決定の遅延」が本当の課題だと気づきます。
I(示唆質問)── 最も重要で、最も差がつく質問
示唆質問は、4つの中で最も重要であり、最も難しい質問です。多くの営業パーソンがP(問題質問)で課題を聞いた後、すぐに提案に飛んでしまいますが、ここが落とし穴です。
顧客がまだ「困っているけど、今すぐどうにかしなければ」とは思っていない状態で提案しても、「検討します」で終わります。示唆質問は、課題を放置した場合の影響を顧客自身に考えてもらうことで、「今動かなければ」という緊急性を生む質問です。
示唆質問には5つの切り口があります。
| 切り口 | 質問例 | 効果 |
|---|---|---|
| 時間軸(将来の影響) | 「この状況が半年続くと、○○にどんな影響が出そうですか?」 | 放置コストを意識させる |
| 波及効果(他部門への影響) | 「この課題は、マーケティング部門にも影響が出ていませんか?」 | 問題の範囲を広げる |
| 数値化(定量的な損失) | 「この作業に毎月どのくらいの工数がかかっていますか?」 | 解決の費用対効果を計算可能にする |
| 競合比較 | 「同業他社はこの課題をどう解決しているか、ご存知ですか?」 | 「取り残される」危機感を醸成 |
| 機会損失 | 「もしこの時間を新規開拓に使えたら、どんな成果が出ますか?」 | 失っている「可能性」を意識させる |
提案が通らなかったとき、最初に見直すべきはI(示唆質問)が十分だったかです。課題の「痛み」を顧客が実感していない状態で提案しても、刺さりません。
N(必要質問)── 顧客にメリットを語らせる
必要質問は、クロージングへの橋渡しです。ここでのポイントは、営業がメリットを説明するのではなく、顧客自身に語ってもらうこと。
× 営業が説明する:「当社のツールなら入力工数が50%削減できます」
○ 顧客に語ってもらう:「もしデータ入力の手間が半分になったら、空いた時間をどう使いたいですか?」
顧客が自分の言葉で「この問題が解決したら○○が変わる」と語った瞬間、それは「営業からの提案」ではなく「自分自身の意思決定」になります。この状態を作れれば、クロージングは自然に進みます。
SPINを商談のどこで使うか── 商談プロセスとの接続
SPINは「ヒアリングのとき」に使うもの、と思われがちですが、実は商談プロセスの複数の段階で活用できます。
| 商談の段階 | 使うSPIN質問 | 目的 |
|---|---|---|
| 課題ヒアリング | S → P → I → N(フル活用) | 課題の構造化から解決価値の共有まで |
| 提案 | I(示唆)の再活用 | 提案内容が「なぜ必要か」を再確認させる |
| 反論対処 | I(示唆)+ N(必要) | 「放置リスク」と「解決メリット」を改めて意識させる |
| クロージング | N(必要)の最終確認 | 導入後の姿を顧客の言葉で語らせ、意思決定を後押しする |
また、SPINの質問に対する顧客の回答は、商談の移行判定基準としても使えます。
| 段階の移行 | SPINで確認すべきこと | 判定の目安 |
|---|---|---|
| 初回接触 → 課題ヒアリング | S質問への具体的な回答 | 顧客が自社の状況を具体的に説明でき、次回面談に合意した |
| 課題ヒアリング → 提案 | P・I質問で課題が構造化された | 顧客が課題を3つ以上特定し、優先順位について合意した |
| 提案 → 検討・交渉 | N質問で解決価値が共有された | 顧客が解決後のメリットを自分の言葉で説明でき、意思決定者レビューが設定された |
こうした活用の仕方については、商談プロセスの設計手順と管理のポイントで詳しく解説しています。
【テンプレート】SPIN質問設計ワークシート
以下のテンプレートを商談前に記入しておくと、質問の準備が格段にスムーズになります。
■ SPIN質問設計ワークシート
【商談基本情報】
・顧客企業名:_____________
・担当者名/役職:_____________
・商談の段階:□ 初回接触 □ 課題ヒアリング □ 提案 □ 検討・交渉
・事前リサーチ概要:_____________(IR・ニュース・業界情報から得た仮説)
【S(状況質問)── 2〜3問に絞る】
事前リサーチに基づく仮説:_____________
確認したいこと①:_____________
確認したいこと②:_____________
【P(問題質問)── 表面→原因→影響の3段階で準備】
仮説する課題①:_____________
→ 深掘り質問:「なぜそうなっていますか?」
→ 影響質問:「それが続くと、何が困りますか?」
仮説する課題②:_____________
→ 深掘り質問:_____________
→ 影響質問:_____________
【I(示唆質問)── 5つの切り口から2〜3問選ぶ】
□ 時間軸:「この状況が__ヶ月続くと、どんな影響が出そうですか?」
□ 波及効果:「○○部門にも影響が出ていませんか?」
□ 数値化:「この作業に毎月どのくらいの工数がかかっていますか?」
□ 競合比較:「同業他社はこの課題をどう解決しているか、ご存知ですか?」
□ 機会損失:「もしこの時間を○○に使えたら、どんな成果が出ますか?」
【N(必要質問)── 顧客にメリットを語らせる】
想定する解決後の姿:_____________
質問案:「もし○○が解決したら、__にどんな変化がありますか?」
【商談後メモ】
顧客が語った課題(P回答):_____________
顧客が語った影響(I回答):_____________
顧客が語ったメリット(N回答):_____________
移行判定:□ 次の段階に進める □ 追加ヒアリングが必要 □ 時期尚早(リード育成に戻す)
テンプレートはあくまで出発点です。2〜3回使ってみて、自社の商材やターゲットに合わせてカスタマイズしてください。商談前の事前準備のコツも参考になります。
まとめ:明日の商談から始める3つのこと
SPINは、一度に完璧に使いこなす必要はありません。まずは一つずつ意識するところから始めてみてください。
明日から始められる3つのこと:
1. 状況質問を2〜3問に絞る ── 商談前に15分だけ顧客企業のIRやニュースを確認し、「仮説検証型」の質問を準備してみてください。それだけで状況質問の数が半分に減り、本題に入る時間が増えます
2. 示唆質問を1つだけ追加する ── 課題を聞いた後、すぐに提案に入るのではなく、「この状況が半年続くと、どんな影響が出そうですか?」と1問だけ追加してみてください。顧客の反応が変わるはずです
3. 必要質問で顧客にメリットを語ってもらう ── 「当社なら○○できます」と言いたくなる場面で、代わりに「もしこの課題が解決したら、どんな変化がありますか?」と聞いてみてください。顧客が自分の言葉で価値を語れたら、提案は通りやすくなります
SPINは「何を話すか」ではなく「何を聞くか」の設計です。そして、良い質問は顧客の中に眠っている課題の構造を引き出し、顧客自身が「これは解決すべきだ」と気づく体験を作ります。テンプレートを活用しながら、自分の商談に合った質問の型を見つけていってください。
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この記事の考え方の背景: SPIN Selling(ニール・ラッカム)







