営業クロージングとは?成約率を高める実践テクニックと手順を解説

「提案までは順調なのに、最後の一押しができない」「クロージングの場面になると、つい弱気になってしまう」──こうした悩みを抱える営業パーソンは少なくありません。クロージングに苦手意識がある方ほど、テクニックを学べば解決すると考えがちですが、実はそれだけでは成約率は上がりません。
クロージングの成否は、テクニックそのものよりも、商談プロセス全体の設計品質によって大きく左右されます。ヒアリングで顧客の課題を十分に深掘りできているか、提案の前に顧客が「解決したい」という気持ちを自分の言葉で語れる状態になっているか。こうした準備があってはじめて、クロージングは自然な流れとして成立します。
本記事では、営業クロージングの正確な定義と商談プロセスの中での位置づけから始め、成約率が上がらない構造的な原因、テストクロージングから契約手続きまでの具体的な手順、実践で使えるテクニック7選、よくある断り文句への対処法まで、体系的に解説します。クロージング前のBANTチェックリストや振り返りシートも用意しましたので、明日の商談からすぐに活用してみてください。
営業クロージングとは?── 定義と商談プロセスでの位置づけ
クロージングとは何か、その正確な意味と、商談全体の中でどこに位置するかを理解することが、成約率改善の出発点です。
クロージングの正確な定義
営業クロージングとは、商談プロセスの最終段階において、見積もり条件の合意から発注意思の確認までを行うプロセスです。「契約書にハンコを押してもらう瞬間」だけを指すのではなく、条件の擦り合わせ、合意形成、意思確認という一連の流れ全体がクロージングに該当します。
この定義は重要です。クロージングを「最後の一瞬の押し」と捉えると、テクニックに頼る発想になりがちですが、実際にはそこに至るまでのプロセスの積み重ねが成否を分けるからです。
商談プロセスの中でのクロージングの位置
商談プロセス全体の流れの中で、クロージングは以下の位置にあります。
商談プロセスの基本ステップ:
- SQL認定(営業が対応すべき見込み案件の選定)
- 提案・価値訴求(顧客の課題に合った解決策の提示)
- 反論対処・懸念払拭(顧客の不安や疑問への対応)
- ★ クロージング・合意形成(条件合意と発注意思の確認)
- 契約手続き・フォローアップ(契約書対応と導入準備)
つまり、クロージングは提案と反論対処が十分にできた「後」に来る段階です。提案が顧客に響いていない状態や、顧客の懸念が解消されていない状態でクロージングに入っても、成約にはつながりません。
顧客の検討フェーズとの対応関係
営業側のステップだけでなく、顧客側の検討フェーズとの対応を理解しておくことも大切です。
| 顧客の検討フェーズ | 顧客の状態 | 営業の対応 |
|---|---|---|
| 選択肢の評価・絞り込み | 2〜3社に絞って詳細を比較している | 提案・デモの実施 |
| 担当者の合意 | 現場担当者が「これがいい」と判断した | 反論対処 → クロージングへの移行準備 |
| 決裁者の合意 | 意思決定者の承認を得るプロセス | ★ クロージング(本記事の中核) |
| 書類チェック | 契約書レビュー、法務確認 | 契約手続き・フォローアップ |
ここで注意すべきは、「担当者が合意した」だけではクロージングは完了しないということです。BtoB営業では、担当者と決裁者が異なるケースがほとんどです。担当者の合意が取れたからといって安心せず、決裁者の合意まで見据えた設計が必要になります。
クロージングで成約率が上がらない3つの構造的原因
「クロージングが弱い」と感じているとき、原因はクロージングの場面だけにあるとは限りません。多くの場合、商談プロセスのもっと手前に構造的な問題があります。
原因①:ヒアリング段階で課題の「痛み」が共有されていない
提案が通らない商談を振り返ると、顧客が課題を「痛み」として実感していないまま提案に入っているケースが非常に多いです。
たとえば、顧客が「商談管理がうまくいっていない」と言ったとします。ここで「それなら当社のツールが最適です」と提案に入ってしまうと、顧客は「まあそうかもしれないけど、今すぐ必要かな」と感じます。
本来は、その課題を放置した場合にどのような影響が出るのかを、顧客自身に考えてもらうステップが必要です。「その状況が半年続くと、チームの目標達成にどんな影響がありそうですか?」といった示唆質問(SPIN営業のI質問)を通じて、課題の深刻さを顧客自身が実感することで、はじめて「解決しなければ」という行動意欲が生まれます。
原因②:顧客の検討フェーズとタイミングが合っていない
顧客にはそれぞれの検討ペースがあります。課題を認識したばかりの段階でクロージングをかけても空振りしますし、逆に顧客が「今すぐ導入したい」と思っているのに営業が慎重すぎてもチャンスを逃します。
特にBtoB営業では、担当者の合意と決裁者の合意は別物です。現場の担当者が「ぜひ導入したい」と言っていても、決裁者が課題を認識していなければ商談は停滞します。エンタープライズ営業では、現場→部門長→IT部門→経営層と、段階的に合意を取っていく「マルチレベルクロージング」の発想が必要です。
原因③:テクニックに頼り、クロージング前の「準備」を飛ばしている
クロージングテクニックは、それ単体では効果を発揮しません。テクニックが機能するのは、以下の情報がすでに揃っているときです。
- 予算(Budget): 予算枠があるか、いつ確定するか
- 決裁者(Authority): 最終的に誰が判断するか
- ニーズ(Need): 顧客が課題と解決の必要性を自分の言葉で語れるか
- タイムライン(Timeline): いつまでに導入したいか
この4要素(BANT)が確認できていない状態でテクニックを使っても、「なんとなくいい雰囲気だったけど、結局進まなかった」という結果になりがちです。テクニックは「準備の上に乗るもの」であり、準備そのものの代わりにはなりません。
📘 商談プロセスの全体像を押さえたい方へ
クロージングは商談プロセスの「仕上げ」です。提案からクロージングまでの全体設計については「商談プロセスとは?営業サイクル全体像から設計手順・管理・可視化のポイントまで解説」で詳しく解説しています。

クロージングの流れ── テストクロージングから契約手続きまで
クロージングは一発勝負ではありません。段階を踏んで進めることで、成約の確度を高められます。
ステップ1:テストクロージングで温度感を測る
テストクロージングとは、本格的なクロージングに入る前に、顧客の購入意向や残存する懸念を探る予備的な質問です。これにより、顧客がクロージングに進む準備ができているかを確認できます。
テストクロージングの質問パターン:
| パターン | 質問例 | 確認できること |
|---|---|---|
| if型 | 「もし導入するとしたら、いつ頃のスタートが理想ですか?」 | タイムラインの本気度 |
| スケール型 | 「現時点で、導入に対するお気持ちを10段階で表すとどのくらいですか?」 | 温度感の定量化 |
| 懸念確認型 | 「ここまでのご説明で、気になる点やご不安はありますか?」 | 残っている懸念の洗い出し |
テストクロージングの結果、顧客にまだ懸念が残っていることが分かれば、反論対処に戻ります。ここで無理にクロージングに進まないことが、結果的に成約率を高めます。
ステップ2:本クロージングで合意形成する
テストクロージングで顧客の準備が確認できたら、本クロージングに入ります。
- 条件提示: 見積もり・契約条件を明確に提示する
- 合意確認: 各条件について一つずつ合意を取る(金額、契約期間、導入スケジュールなど)
- 意思確認: 「この内容で進めてよろしいでしょうか?」と明確に意思を確認する
- 次のアクション設定: 契約書送付・法務確認・決裁者説明のスケジュールを具体的に決める
ポイントは、一つひとつの条件について個別に合意を積み重ねること。すべてをまとめて「いかがでしょうか」と聞くと、顧客はどこに引っかかっているのか分からなくなり、「検討します」という曖昧な回答になりがちです。
ステップ3:契約手続き・フォローアップ
合意が取れたら、契約手続きに移ります。ここでのスピードが重要です。合意から契約書送付までに時間が空くと、顧客の熱量が下がったり、社内で再検討が入ったりするリスクがあります。
- 合意後当日〜翌営業日に契約書を送付する
- 法務確認で出てきた修正点には迅速に対応する
- 契約締結後は速やかにオンボーディング(導入支援)の計画を共有する
【実践ツール①】クロージング前BANTチェックリスト
クロージングに入る前に、以下の4項目を確認してください。1つでも「×」がある場合は、先にその情報を埋める必要があります。
| 確認項目 | チェック内容 | ○/△/× |
|---|---|---|
| B(予算) | 予算枠の有無を確認できている。金額感にズレがない | |
| A(決裁者) | 最終意思決定者が誰か把握している。決裁プロセスを理解している | |
| N(ニーズ) | 顧客が課題と解決の必要性を自分の言葉で語れている | |
| T(タイムライン) | 導入希望時期を確認できている。社内検討スケジュールを把握している |
成約率を高めるクロージングテクニック7選
準備が整った上で使うことで効果を発揮する、BtoB営業で有効なクロージングテクニックを7つ紹介します。
テクニック①:ゴールデンサイレンス(沈黙の活用)
条件提示や意思確認の後に、意図的に沈黙するテクニックです。営業パーソンは沈黙が怖くて、つい追加の説明をしてしまいがちですが、沈黙は顧客が自分の頭で考えている証拠です。提案後の沈黙は、最低でも5〜10秒は待ちましょう。
テクニック②:ifクロージング(仮定質問)
「もし導入するとしたら、どの部署から始めますか?」のように、仮定の形で質問するテクニックです。「決定してください」ではなく「仮に」というワンクッションを置くことで、顧客の心理的ハードルを下げる効果があります。テストクロージング段階で特に有効です。
テクニック③:松竹梅の法則(3つの選択肢提示)
見積もり提示時に、高・中・低の3つのプランを提示するテクニックです。3つの選択肢があると、議論が「買うか・買わないか」から「どれにするか」に移りやすくなり、中間のプランが選ばれる傾向があります。
テクニック④:YES SET法(小さな合意の積み重ね)
商談の中で小さな「はい」を積み重ねていく方法です。「この課題は御社にとって重要ですよね」「この機能があると便利ですよね」と、顧客が自然に同意できる確認を重ねることで、最終的な合意への心理的な一貫性が生まれます。
テクニック⑤:損失回避の提案
導入のメリットだけでなく、導入しなかった場合に失われるものを提示するテクニックです。人は得られるメリットよりも、失うリスクを強く感じる傾向があります。「導入しない場合、毎月○時間の工数が継続的に発生します」のように、具体的な数値で示すと効果的です。
テクニック⑥:ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩の活用)
最初にやや大きな提案をした上で、本命の提案を出すテクニックです。最初の提案が断られた後の提案は受け入れられやすくなる、という心理を活用します。ただし、過度に使うと不信感を生むため、複数プランを提案する場面で自然に使うことがポイントです。
テクニック⑦:期限の活用
適切な緊急性を持たせるテクニックです。ただし、「今月中なら値引きします」のような売り手側の都合ではなく、顧客のビジネスタイムラインに合わせることが大切です。「来期の目標達成から逆算すると、○月までに導入しておく必要がありそうですね」のように、顧客の事業計画と結びつけて提示します。
テクニック活用の大原則
どのテクニックにも共通する大原則は、テクニックの目的は「契約を取ること」ではなく「顧客の意思決定を支援すること」だということです。
35,000件以上の商談を分析したラッカムの研究でも、成約率の高い営業パーソンは、クロージングテクニックを多用するのではなく、それ以前のヒアリングと提案の質が高いことが明らかになっています。テクニックはあくまで仕上げであり、準備の上に乗せてこそ機能します。
よくある断り文句への対処法── 3パターン分類で攻略
クロージングの場面で遭遇する断り文句は、大きく3つのパターンに分類できます。パターンが分かれば、対処の方向性も明確になります。
パターン①:不断(決められない)── 「検討します」
顧客の心理: 判断材料が不足している、または意思決定の負荷が高い。
「検討します」は最も頻繁に聞かれる断り文句ですが、これは「断り」ではなく「判断に必要な情報が足りていない」というサインです。
対処の流れ:
- 検討の中身を具体化する
- 「具体的にどのような点を検討されますか?」
- 「どなたと検討されますか?」
- 「いつ頃までにご結論を出される予定ですか?」
- 不足している判断材料を特定して補う
- 「ご判断に必要な追加情報はありますか?」
- 次のアクションを具体的に設定する
- 「来週の水曜日に、検討結果をお伺いするお電話をしてもよろしいですか?」
パターン②:不急(今じゃない)── 「来期に検討します」
顧客の心理: 課題は認識しているが、解決の緊急性を感じていない。
対処の流れ:
- 先送りのリスクを共有する
- 「半年後の状況を考えると、この課題にどんな影響がありそうですか?」
- 「競合他社が先に対策を進めた場合、御社への影響はいかがでしょうか?」
- 顧客のビジネスタイムラインと接続する
- 「来期の目標達成から逆算すると、いつ頃から準備が必要でしょうか?」
- 小さなステップを提案する
- 「まず1部門でのトライアルから始めてみませんか?」
パターン③:不安(信頼できない)── 「本当に効果があるの?」
顧客の心理: 効果や実績、導入リスクに不安がある。
対処の流れ:
- 不安の正体を特定する
- 「具体的にどのような点がご不安ですか?」(効果・導入リスク・運用負荷・社内浸透のどれか)
- 特定された懸念に対してエビデンスを提示する
- 同業他社の導入事例、数値データ、デモ、トライアル提案
- 顧客の成功基準を確認する
- 「どのような状態になれば、導入成功とお考えですか?」
【実践ツール②】テストクロージング質問テンプレート
以下の質問を商談の終盤で使い、顧客の状態を確認しましょう。
| 確認したいこと | 質問テンプレート |
|---|---|
| 導入意向の強さ | 「もし導入するとしたら、いつ頃のスタートが理想ですか?」 |
| 温度感の定量化 | 「導入に対するお気持ちを10段階で表すと、今どのくらいですか?」 |
| 残存する懸念 | 「ここまでのご説明で、まだ気になる点やご不安はありますか?」 |
| 決裁プロセス | 「社内ではどのような流れで導入の判断をされますか?」 |
| 競合状況 | 「他にご検討中のサービスはありますか?比較のポイントがあれば教えてください」 |
クロージング力を継続的に高める振り返り習慣
クロージングスキルは、一度テクニックを学んだだけでは伸びません。商談ごとの振り返りを習慣にすることで、継続的に精度を高めていくことが大切です。
なぜ振り返りが必要なのか
クロージングの結果には、商談プロセス全体の設計品質が反映されます。失注したときに「クロージングが弱かった」で終わらせず、どの段階に原因があったのかを特定することで、次の商談に活かせます。
たとえば、FS KPI設計の考え方を使うと、失注を「SQL認定前の失注(そもそも商談にすべきでなかった案件)」と「SQL認定後の失注(商談プロセスの問題)」に分けて分析できます。クロージング段階での失注は後者に該当し、さらに「競合負け」「社内合意形成の失敗」「価格・条件の不適合」「タイミングの不一致」「課題認識の不足」に分類すると、具体的な改善策が見えてきます。
【実践ツール③】クロージング振り返りシート
商談後に以下の項目を記入し、次の商談への改善点を明確にしましょう。
| 振り返り項目 | 記入内容 |
|---|---|
| BANT確認状況 | B(予算):○/△/× ・A(決裁者):○/△/× ・N(ニーズ):○/△/× ・T(タイムライン):○/△/× |
| テストクロージングの結果 | 顧客の反応(積極的 / 中立 / 消極的) |
| 使用したテクニック | 何を使ったか、効果があったか |
| 断り文句の内容 | 不断 / 不急 / 不安 のどれに該当するか |
| 対処の結果 | 懸念を解消できたか、次のアクションを設定できたか |
| 次の商談への改善点 | 具体的に何を変えるか |
📘 クロージングの精度を数値で測りたい方へ
商談の段階別移行率や受注率の分析方法については、「フィールドセールスのKPI設計|3階層モデルで成果を可視化する方法」で詳しく解説しています。

まとめ:営業クロージングは「テクニック」ではなく「商談設計の仕上げ」
本記事のポイントをまとめます。
- 営業クロージングとは、見積もり条件の合意から発注意思の確認までのプロセスである
- クロージングは商談プロセスの最終段階であり、提案・反論対処の後に位置する
- 成約率が上がらない原因は、多くの場合テクニック不足ではなく、ヒアリング・準備段階の設計不足にある
- クロージングはテストクロージング→本クロージング→契約手続きの3ステップで段階的に進める
- テクニックは「準備の上に乗せてこそ機能する」ものであり、BANT確認が前提
- 断り文句は不断・不急・不安の3パターンに分類すると対処の方向性が明確になる
- 商談ごとの振り返り習慣がクロージング力を継続的に高める
クロージングに苦手意識がある方は、まずBANTチェックリストを使って、次の商談前の準備を見直すことから始めてみてください。準備の質が変われば、クロージングの場面での自信も変わってきます。
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よくあるご質問
質問:クロージングに最適なタイミングはいつですか?
回答:テストクロージングで顧客の温度感を確認し、BANT(予算・決裁者・ニーズ・タイムライン)の4要素が揃った段階が最適です。顧客が課題解決の必要性を自分の言葉で語れている状態を目安にしてください。
質問:「検討します」と言われたらどう対応すべきですか?
回答:「検討します」は判断材料の不足を示すサインです。「具体的にどのような点を検討されますか?」と検討内容を具体化し、不足情報を補った上で、次回の連絡日時を設定しましょう。
質問:テストクロージングと本クロージングの違いは何ですか?
回答:テストクロージングは「顧客が決断の準備ができているか」を確認する予備質問です。本クロージングは条件の合意と発注意思の確認を行う段階です。テストクロージングで懸念が見つかれば、反論対処に戻ります。
質問:クロージングテクニックを使っても成約率が上がらないのはなぜですか?
回答:多くの場合、テクニック以前の準備段階に問題があります。ヒアリングで課題の「痛み」が共有できていない、BANT情報が揃っていないなど、クロージング前の商談設計を見直すことで改善するケースがほとんどです。







