PDCAを回すためのインサイドセールス週次・月次レビューの進め方
インサイドセールス組織を立ち上げたものの、「なかなか成果が安定しない」「改善が進まない」という課題を抱えていませんか?
日々の架電やメール配信は実行しているのに、商談化率が上がらない。週次ミーティングは開催しているのに、同じ問題が繰り返し発生する。こうした悩みを抱える組織に共通しているのは、PDCAサイクルの運用設計に問題があることです。
本記事では、SalesGridが提唱する「営業を科学し、成果を最大化する」アプローチに基づき、インサイドセールスチームが継続的に成果を向上させるための週次・月次レビューの具体的な進め方をご紹介します。
単なる「振り返りミーティングのやり方」ではなく、データドリブンな改善サイクルを組織に根付かせるためのフレームワークとして、明日から実践できる内容をお伝えします。
なぜインサイドセールスにPDCAサイクルが不可欠なのか
属人的な営業からの脱却|再現性ある組織づくりの第一歩
従来の営業活動は、個人の経験や勘に大きく依存してきました。トップ営業担当者のノウハウは「なんとなくうまくいっている」状態で、他のメンバーへの横展開が難しい。新人が戦力化するまでに時間がかかり、離職すればまた一からやり直し──。
インサイドセールスの強みは、こうした属人的な営業活動をデータに基づいて科学的に改善できる点にあります。
通話録音、CRM/SFAへの活動ログ、メールの開封率・返信率など、インサイドセールスはあらゆる行動がデータとして蓄積されます。このデータを活用し、PDCAサイクルを回すことで、以下のような価値を実現できます。
- 再現性の確保:成功パターンを特定し、チーム全体に横展開できる
- 早期の課題発見:数値の異常値から問題を早期に把握し、対策を打てる
- 継続的な改善:小さな改善を積み重ね、組織全体のパフォーマンスを底上げできる
SalesGridが掲げる「営業を科学する」とは、まさにこのPDCAサイクルを通じた継続的改善のプロセスそのものです。
PDCAが回らない組織に共通する3つの課題
多くの企業がPDCAの重要性を理解していながら、実際にはうまく機能していません。私たちがこれまで支援してきた企業を分析すると、以下の3つの課題が共通して見られます。
課題①:目標(KPI)が曖昧で振り返りの基準がない
「商談を増やす」「成果を上げる」といった漠然とした目標では、何をもって「達成」「未達成」を判断するのかが不明確です。振り返りの場でも「頑張った」「もっと頑張る」という精神論に終始し、具体的な改善アクションに繋がりません。
課題②:振り返りの場が「報告会」で終わっている
週次ミーティングが、各メンバーの活動報告を順番に聞くだけの場になっていませんか?これでは時間の浪費であり、改善のための議論が生まれません。レビューの目的は「報告」ではなく「改善策の議論と決定」です。
課題③:改善アクションが具体化されず実行に移されない
「来週はもっと架電数を増やそう」「トークを改善しよう」──こうした曖昧なアクションは、結局実行されません。誰が、いつまでに、何を、どのように行うのかが明確でなければ、改善は進みません。
成功する組織が実践するPDCAサイクルの特徴
一方で、継続的に成果を上げている組織には、共通する特徴があります。
| 特徴 | 具体的な実践内容 |
| 短いサイクルでの仮説検証 | 週次で小さな改善を回し、月次で効果を検証する |
| データドリブンな課題特定 | 感覚ではなく、数値に基づいて問題箇所を特定する |
| チーム全体での学習 | 個人の成功・失敗を組織の知見として蓄積・共有する |
| アクションの具体化と追跡 | 改善施策を5W1Hで明確化し、実行状況をフォローする |
これらの特徴を自社の組織に取り入れるためのフレームワークを、次章以降で詳しく解説します。
インサイドセールスにおけるPDCA設計の基本フレームワーク
PDCAサイクルを効果的に回すためには、各フェーズで何を行うべきかを明確に設計する必要があります。ここでは、インサイドセールスに特化したPDCA設計の基本フレームワークをご紹介します。
Plan(計画)|KPI設計と目標設定の考え方
PDCAの起点となる「Plan」では、適切なKPI設計と目標設定が不可欠です。SalesGridでは、KPIを以下の3階層で設計することを推奨しています。
3階層KPI設計

| 階層 | 内容 | 具体例 |
| 戦略KPI(組織全体) | 事業成果に直結する指標 | 受注金額、受注件数、LTV、CAC |
| 戦術KPI(チーム・個人) | 戦略KPIを達成するための中間指標 | 商談創出数、商談化率、SQL数、BANT取得率 |
| 行動KPI(日次管理) | 日々の活動量・効率を測る指標 | コール数、接続率、メール送信数、有効会話数 |
重要なのは、組織の成熟度に応じてKPIの重点を変えることです。
- 立ち上げ期(0-6ヶ月):行動KPI重視(まずは量を確保)
- 成長期(6ヶ月-1年):戦術KPI追加(効率性・品質の向上)
- 成熟期(1年以降):戦略KPI重視(収益性・LTV貢献度)
また、インサイドセールスは単独で成果を出すのではなく、マーケティングからのリード獲得、フィールドセールスへの商談引き継ぎという流れの中で機能します。そのため、部門間連携を意識した目標設定も重要です。
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KPI設計の詳細については、「インサイドセールスのKPI設計完全ガイド──戦略・戦術・行動の3階層」で詳しく解説しています。
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Do(実行)|日次の行動管理とデータ収集
「Do」フェーズでは、計画に基づいた営業活動の実行と、そのデータ収集を行います。
日次で管理すべき主要指標
- コール実行数・接続率・有効会話数
- メール送信数・開封率・返信率
- 商談設定数(アポイント獲得数)
- リードのフェーズ遷移状況
これらのデータをリアルタイムで可視化するために、CRM/SFAツールの活用が不可欠です。Salesforceやhubspot、その他のSFAツールを導入している企業は、ダッシュボードを設定し、チームメンバーが常に現状を把握できる環境を構築しましょう。
また、トークスクリプトの遵守状況を把握することも重要です。通話録音を活用し、スクリプトのどの段階で顧客が離脱しているか、どのフレーズが効果的かをデータとして蓄積します。
Check(評価)|週次・月次レビューの役割と使い分け
「Check」フェーズは、PDCAサイクルの中で最も重要なフェーズです。ここでの振り返りの質が、改善の質を決定します。
レビューの種類と役割
| レビュー種類 | 頻度 | 目的 | 主な確認内容 |
| 日次レビュー | 毎日 | 当日の活動確認と翌日の準備 | 個人の活動量、緊急対応事項 |
| 週次レビュー | 週1回 | 戦術的な振り返りと即時改善 | 週間KPI進捗、ボトルネック特定、翌週アクション |
| 月次レビュー | 月1回 | 戦略的な成果検証と方向性見直し | 月間成果総括、トレンド分析、中長期施策の検討 |
| 四半期レビュー | 3ヶ月に1回 | 組織全体の方向性確認 | 戦略KPI達成状況、大幅な施策変更、組織体制見直し |
週次レビューと月次レビューは、それぞれ異なる目的を持っています。週次は「今何が起きているか」を把握し即座に対応するための場、月次は「この1ヶ月で何が変わったか」を検証し中長期の戦略を見直す場です。この使い分けを明確にすることで、効果的なPDCAサイクルが実現します。
Action(改善)|具体的なアクションプランへの落とし込み
「Action」フェーズでは、Checkで特定した課題を解決するための具体的なアクションを決定し、実行に移します。
改善アクション決定の3つの原則
- 具体性:「もっと頑張る」ではなく「〇〇を△△に変更する」
- 測定可能性:効果を検証できる形で設計する
- 責任の明確化:誰が、いつまでに実行するかを決める
改善施策の優先度を判断する際には、以下のマトリックスが有効です。
| 実行難易度:低 | 実行難易度:高 | |
| 改善インパクト:大 | 最優先で実行 | 中期的に計画 |
| 改善インパクト:小 | 余裕があれば実行 | 後回し |
また、うまくいった施策は標準化・横展開することで、組織全体のパフォーマンス向上に繋げます。成功パターンをスクリプトやマニュアルに反映し、チーム全体で共有する仕組みを構築しましょう。
【実践編】週次レビューの進め方──即時改善サイクルを回す
ここからは、具体的なレビューの進め方を解説します。まずは、インサイドセールスの成果を左右する週次レビューから見ていきましょう。
週次レビューの目的と位置づけ
週次レビューの目的は、「今週何が起きたか」を把握し、翌週のアクションを決めることです。
月次や四半期の目標達成に向けて、週単位で軌道修正を行う「戦術的な振り返りの場」として位置づけます。問題が発生してから1週間以内に対処することで、大きな失敗を未然に防ぎ、小さな成功を積み重ねることができます。
週次レビューで実現すべきこと
- KPI進捗の確認と着地予測
- ボトルネックの早期発見と対策立案
- 成功事例の共有と横展開
- 翌週の優先アクションの決定
週次レビューの推奨アジェンダと時間配分
効果的な週次レビューを実現するための推奨アジェンダをご紹介します。所要時間は50分を目安とし、延長しないことを原則とします。
週次レビュー推奨アジェンダ
| 時間 | アジェンダ | 内容 |
| 10分 | ①KPI進捗確認 | 週間の行動KPI・戦術KPIの達成状況を確認。目標との乖離を数値で把握。 |
| 15分 | ②成功事例・失敗事例の共有 | 今週うまくいったこと、うまくいかなかったことを共有。成功要因・失敗要因を分析。 |
| 20分 | ③ボトルネック特定と改善アクション決定 | 課題の根本原因を特定し、具体的な改善アクションを決定。責任者と期限を明確化。 |
| 5分 | ④翌週の優先アクション確認 | 来週特に注力すべきことを全員で確認し、認識を揃える。 |
ポイント:会議の前日までにKPIデータをダッシュボードやスプレッドシートで共有しておくことで、会議中は「報告」ではなく「議論」に集中できます。
週次レビューで確認すべきKPIと分析観点
週次レビューでは、以下のKPIを確認し、異常値や傾向の変化を分析します。
確認すべき主要KPI
| カテゴリ | KPI | 分析観点 |
| 行動量 | コール実行数、メール送信数 | 目標に対する達成率、前週比較 |
| 効率性 | 接続率、有効会話率、開封率・返信率 | 効率が下がっている場合の原因特定 |
| 成果 | 商談設定数、商談化率 | 量と質のバランス、リードソース別の差異 |
| プロセス | リードフェーズ遷移率、スクリプト通過率 | どの段階でボトルネックが発生しているか |
特に注目すべきは、スクリプトの段階別通過率です。オープニングで切られているのか、ヒアリングで離脱されているのか、クロージングで断られているのか──。落ちポイントを特定することで、具体的な改善アクションに繋げることができます。
週次レビューを形骸化させないための運用ポイント
週次レビューが「やってる感」だけで終わらないために、以下のポイントを意識してください。
① 事前準備を徹底する
会議当日にデータを集め始めるのではなく、前日までにダッシュボードを更新し、全員が確認できる状態にしておきます。これにより、会議は「数字の読み上げ」ではなく「なぜそうなったか」「どう改善するか」の議論に集中できます。
② 「報告」ではなく「改善案の議論」にフォーカスする
「今週は〇〇件架電しました」という報告は、データを見れば分かります。レビューの場では、「なぜ目標に届かなかったか」「何を変えれば来週は達成できるか」という議論に時間を使いましょう。
③ 決定したアクションは必ず記録し、翌週フォローする
会議で決まったアクションは、議事録に「誰が・いつまでに・何をするか」を明記します。そして翌週のレビュー冒頭で、前週のアクションの実行状況を必ず確認します。これにより、「決めたけど実行されない」という事態を防ぎます。
④ 心理的安全性を確保する
失敗事例の共有は、改善のために不可欠です。しかし、個人を責める雰囲気があると、失敗を隠すようになり、組織としての学習が止まります。「失敗は学びのチャンス」という文化を、マネージャーが率先して作りましょう。
【実践編】月次レビューの進め方──戦略的な成果検証を行う
週次レビューが「戦術的な即時改善」を目的とするのに対し、月次レビューは「戦略的な成果検証と方向性の見直し」を目的とします。
月次レビューの目的と週次レビューとの違い
週次では見えない中長期のトレンドや構造的な課題を把握し、より大きな改善に取り組むのが月次レビューの役割です。
週次レビューと月次レビューの違い
| 観点 | 週次レビュー | 月次レビュー |
| 時間軸 | 直近1週間 | 直近1ヶ月(+過去3ヶ月のトレンド) |
| 視点 | 戦術的・オペレーショナル | 戦略的・構造的 |
| 課題の粒度 | 個別の行動・スクリプトの改善 | プロセス全体・組織体制の見直し |
| 参加者 | ISチームメンバー | ISチーム+マーケ・FS担当者(必要に応じて) |
| 所要時間 | 50分程度 | 80分程度 |
月次レビューの推奨アジェンダと時間配分
月次レビューの推奨アジェンダをご紹介します。所要時間は80分を目安とします。
月次レビュー推奨アジェンダ
| 時間 | アジェンダ | 内容 |
| 15分 | ①月次KPI達成状況の総括 | 戦略KPI・戦術KPIの達成状況、目標との乖離、前月比較 |
| 20分 | ②セグメント別・チャネル別の成果分析 | リードソース別、顧客セグメント別の商談化率・受注率を分析 |
| 15分 | ③マーケティング・フィールドセールスとの連携状況確認 | リード品質、引き継ぎ商談の成約率、部門間の課題共有 |
| 20分 | ④翌月の戦略・重点施策の決定 | 注力すべきターゲット、改善施策、リソース配分の決定 |
| 10分 | ⑤チームメンバーの成長・スキル課題の確認 | 個人別の成長状況、育成課題、研修・トレーニングの必要性 |
月次レビューで分析すべき指標と観点
月次レビューでは、週次よりも「俯瞰的な視点」で指標を分析します。
月次で確認すべき主要指標
| カテゴリ | 指標 | 分析観点 |
| 成果トレンド | 商談化率・受注貢献率の月次推移 | 改善傾向か悪化傾向か、変化の要因は何か |
| チャネル効果 | リードソース別の商談化率・ROI | どのチャネルが効果的か、リソース配分は適切か |
| 連携品質 | 引き継ぎ商談の成約率、FS満足度 | 引き継ぎの質は十分か、FSとの認識ギャップはないか |
| 人材状況 | 個人別パフォーマンス、スキル評価 | 成長している人・停滞している人の特定、育成施策の効果 |
特に重要なのは、リードソース別の分析です。マーケティングから供給されるリードの質は、施策によって大きく異なります。展示会やセミナーからのリードと、Web広告からのリードでは、商談化率や成約率が異なることが一般的です。このデータをもとに、マーケティングチームにフィードバックを行い、リード品質の向上に繋げましょう。
月次レビューから導く改善アクションの具体例
月次レビューでは、週次では対応しきれない中長期的な改善施策を検討します。
月次で検討する改善アクションの例
- スクリプトの大幅見直し:A/Bテストの結果を反映し、標準スクリプトを改訂
- ターゲットセグメントの優先度変更:商談化率の高いセグメントへのリソースシフト
- リソース配分の最適化:新規開拓・既存顧客深耕・ウィンバックの比率見直し
- 研修・トレーニングプログラムの実施:スキル課題に対応した育成施策の企画
- ツール・プロセスの改善:CRM/SFAの設定変更、業務フローの見直し
マーケティング・フィールドセールスとの連携を強化するレビュー設計
インサイドセールスは、マーケティングとフィールドセールスの「ハブ」として機能します。PDCAサイクルを効果的に回すためには、部門間連携のレビュー設計も欠かせません。
マーケティングとの連携レビュー──リード品質向上のためのフィードバック
マーケティングから供給されるリードの品質は、インサイドセールスの成果に直結します。しかし、「リードの質が悪い」と不満を言うだけでは何も変わりません。データに基づいたフィードバックを行い、協力してリード品質を向上させる仕組みが必要です。
マーケティング連携レビューで共有すべき内容
| 項目 | 内容 |
| チャネル別コンバージョン率 | 展示会、セミナー、Web広告など、施策別の商談化率・成約率 |
| リード品質のフィードバック | 「このセグメントは確度が高い」「このターゲットは課題感が薄い」など具体的な所見 |
| ペルソナ・ICPの見直し提案 | 実際の商談化データに基づく、理想的な顧客像の再定義 |
| コンテンツ改善の要望 | 顧客との会話から得られた、コンテンツに反映すべきニーズや関心事項 |
推奨頻度:隔週または月次(マーケティング施策のサイクルに合わせて調整)
フィールドセールスとの連携レビュー──引き継ぎ品質の向上
インサイドセールスが創出した商談がフィールドセールスに引き継がれた後、成約に至る確率は、引き継ぎの質に大きく左右されます。
「引き継いだのに受注に繋がらない」という状況が続く場合、インサイドセールスとフィールドセールスの間で「良い商談」の定義がずれている可能性があります。
フィールドセールス連携レビューで確認すべき内容
| 項目 | 内容 |
| 引き継ぎ商談の成約率追跡 | IS起点の商談がどの程度成約しているか、失注理由は何か |
| 引き継ぎ品質スコアの共有 | BANT情報の充足度、顧客の温度感など、品質を定量評価 |
| FSからのフィードバック | 「もっとこの情報が欲しい」「この段階で引き継いでほしい」など具体的な要望 |
| 認識ギャップの特定と解消 | ISが「良い商談」と思っていても、FSは「まだ早い」と感じているケースなど |
推奨頻度:月次(必要に応じて週次で緊急対応)
組織横断レビューの頻度と参加者設計
部門間連携を機能させるためには、誰が、いつ、何を話し合うかを明確に設計する必要があります。
レビュー体系の全体設計
| レビュー種類 | 頻度 | 参加者 | 主な議題 |
| IS内部週次レビュー | 週1回 | ISマネージャー+メンバー | KPI進捗、ボトルネック特定、翌週アクション |
| マーケティング連携レビュー | 隔週/月次 | ISマネージャー+マーケ担当 | リード品質、チャネル効果、施策改善 |
| フィールドセールス連携レビュー | 月次 | ISマネージャー+FS担当 | 引き継ぎ品質、成約率、連携課題 |
| 全体戦略レビュー | 四半期 | 経営層+各部門責任者 | 戦略KPI、組織体制、中長期計画 |
このように、階層と頻度を分けてレビューを設計することで、それぞれの目的に応じた議論ができるようになります。
PDCAを加速させるツール活用とデータ基盤
PDCAサイクルを効率的に回すためには、ツールの活用とデータ基盤の整備が欠かせません。適切なツールを導入することで、データ収集・分析・共有の工数を大幅に削減し、改善活動そのものに時間を使えるようになります。
CRM/SFAを活用した進捗管理の自動化
CRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)は、インサイドセールスのPDCAを支える基盤ツールです。
CRM/SFA活用のポイント
| 機能 | 活用方法 |
| ダッシュボード | KPIをリアルタイムで可視化し、チーム全員が常に現状を把握できる状態に |
| アラート設定 | 目標との乖離が一定以上になった場合に自動通知し、早期対応を促す |
| レポート自動生成 | 週次・月次レビュー用のレポートを自動生成し、会議準備工数を削減 |
| 活動ログの自動記録 | 架電・メール・商談設定などの活動を自動でCRMに記録し、入力漏れを防止 |
主要なCRM/SFAツールとしては、Salesforce、HubSpot、ZOHO CRMなどがあります。自社の規模や予算、既存システムとの連携を考慮して選定しましょう。
録音分析ツールを活用したスクリプト改善
通話録音の分析は、スクリプト改善の最も効果的な方法です。近年はAIを活用した音声分析ツールも登場し、大量の通話データから自動的に改善ポイントを抽出できるようになっています。
録音分析で把握すべき項目
- スクリプト遵守率:設計したスクリプト通りに話せているか
- 段階別通過率:オープニング、ヒアリング、提案、クロージングの各段階で、どの程度顧客が残っているか
- 効果的なフレーズ:高成果者が使っている表現、関心を引くワード
- 顧客の反応パターン:どのタイミングで関心が高まり、どこで離脱するか
コール分析ツールは録音分析をAIで自動化し、スクリプトの継続的改善を支援するツールです。
データドリブンな意思決定を支える分析基盤
PDCAサイクルの質を高めるためには、感覚ではなくデータに基づいた意思決定が不可欠です。
構築すべきデータ分析基盤
| レベル | 内容 | 活用例 |
| 可視化 | KPIをダッシュボードで常時確認できる状態 | 日次・週次の進捗把握 |
| 分析 | セグメント別、担当者別、時系列での比較分析 | ボトルネック特定、成功パターン発見 |
| 予測 | 過去データから将来の着地を予測 | 月末着地予測、リソース配分最適化 |
| 最適化 | AIによる最適なアクションの提案 | 次に架電すべきリードの優先度付け |
最初から高度な分析基盤を構築する必要はありません。まずは「可視化」レベルから始め、組織の成熟に合わせて段階的に高度化していくアプローチをお勧めします。
よくある失敗パターンと対処法
PDCAサイクルを回そうとしても、うまくいかないケースは少なくありません。ここでは、よくある失敗パターンとその対処法をご紹介します。
失敗パターン①:レビューが「数字の読み上げ」で終わる
症状:週次・月次レビューで、各メンバーが順番に「今週は〇〇件架電しました」「〇〇件商談化しました」と報告し、それで終わり。
原因:
- 事前にデータが共有されておらず、会議中に初めて数字を見る
- アジェンダが「報告」中心で、「議論」の時間が設けられていない
- ファシリテーターが「報告を聞く」ことを目的にしてしまっている
対処法:
- 会議前日までにダッシュボードを更新し、全員が事前に確認できる状態にする
- アジェンダを「報告」から「議論」中心に再設計する(前述の推奨アジェンダを参照)
- ファシリテーターは「なぜそうなったか?」「どう改善するか?」を問いかける
失敗パターン②:改善アクションが実行されない
症状:会議で「来週はスクリプトを改善しよう」「もっとヒアリングを丁寧にしよう」と決めても、翌週になると何も変わっていない。
原因:
- アクションが曖昧で、具体的に何をすればいいか分からない
- 責任者と期限が決まっていない
- 翌週のレビューでフォローされない
対処法:
- アクションは「誰が・いつまでに・何を・どのように」を明確にする
- 必ず議事録に記録し、翌週のレビュー冒頭で進捗を確認する
- 実行できなかった場合は、その理由を分析し、実行可能な粒度に分解する
失敗パターン③:個人攻撃の場になってしまう
症状:「なぜ達成できなかったんだ」「あの対応はまずかった」と、特定のメンバーを責める空気になる。結果、失敗を報告しづらくなり、問題が隠蔽される。
原因:
- マネージャーが「結果」だけを見て、「プロセス」を見ていない
- 失敗を個人の責任と捉え、組織の学習機会と捉えていない
- 心理的安全性が確保されていない
対処法:
- 「人」ではなく「プロセス・行動」にフォーカスして議論する
- 失敗事例は「組織として何を学べるか」という観点で扱う
- マネージャー自身が率先して自分の失敗を共有し、学びの文化を作る
- レビューの冒頭で成功事例を共有し、ポジティブな空気を作ってから課題に入る
失敗パターン④:マンネリ化して形骸化する
症状:毎週同じアジェンダ、同じ流れで、惰性で会議を続けている。新しい視点や改善が生まれない。
原因:
- 長期間同じフォーマットを使い続けている
- 外部の知見や新しい手法を取り入れる機会がない
- 「改善のための改善」になっている
対処法:
- 定期的(四半期に1回程度)にレビューのアジェンダ・フォーマットを見直す
- 外部のセミナーや勉強会に参加し、新しい視点を取り入れる
- 時には「深掘りテーマ」を設定し、特定の課題についてじっくり議論する回を設ける
- 他社の事例やベンチマークと比較し、自社の改善余地を見つける
【テンプレート】すぐに使えるレビューアジェンダ・チェックリスト
ここまで解説した内容を実践するための、すぐに使えるテンプレートをご紹介します。
週次レビューアジェンダテンプレート
■ 週次レビュー アジェンダ
【基本情報】
・日時:毎週○曜日 ○時~○時(50分)
・参加者:ISマネージャー、ISメンバー全員
・ファシリテーター:○○(持ち回り可)
【事前準備】
・前日までにKPIダッシュボードを更新
・各自、今週の成功事例・課題を1つずつ準備
【アジェンダ】
1. 前週アクションの進捗確認(5分)
- 決定事項の実行状況を確認
- 未実行の場合は理由と対策を確認
2. KPI進捗確認(10分)
- 行動KPI:コール数、接続率、有効会話数
- 成果KPI:商談設定数、商談化率
- 目標との乖離、前週比較
3. 成功事例・失敗事例の共有(15分)
- 各メンバーから1事例ずつ共有
- 成功要因・失敗要因を分析
- 横展開できるポイントを特定
4. ボトルネック特定と改善アクション決定(15分)
- 最も影響の大きい課題を1-2つ選定
- 根本原因を分析
- 改善アクションを決定(誰が・いつまでに・何を)
5. 翌週の優先アクション確認(5分)
- 来週の重点施策を確認
- 各自のコミット事項を宣言
【議事録】
・決定したアクションアイテムを記録
・担当者・期限を明記
・全員に共有(Slack/メール)
月次レビューアジェンダテンプレート
■ 月次レビュー アジェンダ
【基本情報】
・日時:毎月第○週○曜日 ○時~○時(80分)
・参加者:ISマネージャー、ISメンバー、(必要に応じてマーケ・FS担当)
・ファシリテーター:ISマネージャー
【事前準備】
・月次KPIレポートを作成・共有
・各メンバーは月次振り返りシートを記入
【アジェンダ】
1. 月次KPI達成状況の総括(15分)
- 戦略KPI・戦術KPIの達成状況
- 目標との乖離、前月比較、3ヶ月トレンド
2. セグメント別・チャネル別の成果分析(20分)
- リードソース別の商談化率・ROI
- 顧客セグメント別のパフォーマンス
- 効果的なアプローチの特定
3. マーケティング・フィールドセールスとの連携状況確認(15分)
- リード品質に関するフィードバック
- 引き継ぎ商談の成約率追跡
- 部門間の課題・改善要望
4. 翌月の戦略・重点施策の決定(20分)
- 注力すべきターゲット・セグメント
- 改善施策の優先度付け
- リソース配分の見直し
5. チームメンバーの成長・スキル課題の確認(10分)
- 個人別パフォーマンスの振り返り
- 育成課題の特定
- 研修・トレーニングの計画
【議事録】
・月次総括のサマリー
・翌月の重点施策とKPI目標
・決定したアクションアイテム
PDCA運用チェックリスト
以下のチェックリストを定期的に確認し、PDCAサイクルが適切に回っているかを点検しましょう。
【Plan(計画)】
- KPIは3階層(戦略・戦術・行動)で設計されているか
- 目標値は具体的な数値で設定されているか
- 組織の成熟度に応じたKPI重点が設定されているか
- マーケティング・FSとの連携を意識した目標になっているか
【Do(実行)】
- 日次の活動データがCRM/SFAに正確に記録されているか
- トークスクリプトは整備され、遵守状況が把握できているか
- 通話録音が蓄積され、分析に活用できる状態か
- リードのフェーズ遷移が適切に管理されているか
【Check(評価)】
- 週次レビューが定期的に開催されているか
- 月次レビューで中長期のトレンドが分析されているか
- データに基づいた議論が行われているか
- マーケティング・FSとの連携レビューが実施されているか
【Action(改善)】
- 改善アクションは5W1Hで具体化されているか
- アクションの責任者と期限が明確か
- 翌週・翌月のレビューで実行状況がフォローされているか
- 成功パターンは標準化・横展開されているか
まとめ:継続的改善文化を組織に根付かせる
PDCAサイクルは「仕組み」ではなく「文化」
本記事では、インサイドセールスにおけるPDCAサイクルの設計方法と、週次・月次レビューの具体的な進め方を解説してきました。
しかし、最も重要なのは、PDCAを「やらなければいけない仕組み」ではなく「自然に行われる文化」として組織に根付かせることです。
レビューのフォーマットやアジェンダは、あくまで手段に過ぎません。その背後にある「データに基づいて改善し続ける」「失敗から学ぶ」「チームで成長する」というマインドセットこそが、持続的な成果を生み出す源泉です。
マネジメント層が率先してこの文化を体現し、メンバーがそれを自然と受け継いでいく──そうした組織づくりを目指しましょう。
小さな改善の積み重ねが大きな成果を生む
「劇的な改善」「一発逆転」を求めるのではなく、毎週1%ずつ改善していくことの威力を理解してください。
仮に毎週1%ずつパフォーマンスが向上したとすると、1年後(52週後)には約67%の向上になります。これは、複利の力と同じです。
完璧なPDCAサイクルを最初から回そうとする必要はありません。まずは本記事で紹介した週次レビューのアジェンダを試してみる、1つのKPIに絞って振り返りを始めてみる──そうした小さな一歩から始めましょう。
次のステップ:より高度な分析と改善へ
PDCAサイクルの基本が回り始めたら、次はより高度な分析と改善に進みましょう。
- AI活用による予測分析:過去データから将来の着地を予測し、先手を打った対策を実行
- 録音分析の自動化:AIによるスクリプト遵守率・感情分析で、改善ポイントを自動抽出
- 組織横断のデータ統合:マーケティング・IS・FSのデータを統合し、ファネル全体を最適化
SalesGridでは、こうした高度な営業改善を支援するツール「SalesIntegral」の開発を進めています。また、本シリーズ「インサイドセールス立ち上げ完全ガイド」では、KPI設計、トークスクリプト、マネジメント、採用・育成など、インサイドセールスの立ち上げから拡大までに必要な知見を体系的に提供しています。
ぜひ他の記事もご覧いただき、貴社のインサイドセールス組織の成長にお役立てください。
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- 立ち上げ期・成長期・成熟期で変えるべきKPIとは?
- インサイドセールスのトークスクリプト作成ガイド──7段階構造と設計原則
- コール録音分析による個人別育成プランの作り方
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よくあるご質問
質問:週次レビューと月次レビューは、両方実施する必要がありますか?
回答:はい、両方実施することを推奨します。週次レビューと月次レビューはそれぞれ異なる目的を持っています。週次レビューは「直近1週間で何が起きたか」を把握し、即座に対応するための「戦術的な振り返り」です。一方、月次レビューは「この1ヶ月で何が変わったか」「中長期のトレンドはどうか」を検証する「戦略的な振り返り」です。週次だけでは見えない構造的な課題や、月単位のトレンド変化は、月次レビューでなければ把握できません。両方を組み合わせることで、短期の改善と中長期の戦略見直しを両立させることができます。
質問:レビューに参加するメンバーは全員がいいですか?それとも代表者だけでいいですか?
回答:週次レビューにはチーム全員が参加することを推奨します。理由は2つあります。1つ目は、成功事例・失敗事例の共有を通じてチーム全体の学習が促進されるからです。個人が経験したことを組織の知見として蓄積するには、全員が同じ場で共有することが効果的です。2つ目は、改善アクションの決定に全員が関わることで、実行へのコミットメントが高まるからです。ただし、チーム規模が大きい場合(10名以上など)は、サブチーム単位での週次レビュー+全体での月次レビューという構成も有効です。月次レビューについては、必要に応じてマーケティングやフィールドセールスの担当者にも参加してもらい、部門間の課題共有と連携強化を図りましょう。
質問:PDCAを回し始めたものの、なかなか成果に繋がりません。何が原因でしょうか?
回答:PDCAを回しているのに成果が出ない場合、いくつかの原因が考えられます。最も多いのは「Checkが浅い」ケースです。数字を確認するだけで「なぜそうなったか」「何がボトルネックか」の分析が不十分だと、適切なActionに繋がりません。もう1つは「Actionが曖昧」なケースです。「もっと頑張る」「スクリプトを改善する」といった抽象的なアクションでは実行に移せません。「誰が・いつまでに・何を・どのように」を具体化する必要があります。また、「そもそもPlanが間違っている」可能性もあります。KPIの設計や目標値が現実的でない場合、どれだけサイクルを回しても達成できません。まずはKPI設計の見直しから始めることをお勧めします。本記事で紹介したチェックリストを活用し、どのフェーズに問題があるかを特定してみてください。
質問:小規模なチーム(2-3名)でもPDCAサイクルは必要ですか?
回答:はい、小規模チームでもPDCAサイクルは重要です。むしろ、小規模だからこそPDCAを回すことで大きな効果が得られます。小規模チームは1人ひとりの成果がチーム全体に大きく影響するため、個人のスキルアップや改善がダイレクトに成果に繋がります。ただし、大規模チームと同じフォーマットで実施する必要はありません。週次レビューは30分程度に短縮し、月次レビューは週次の延長として実施するなど、チーム規模に合わせて柔軟にアレンジしてください。重要なのは「振り返りの場を定期的に持つこと」「データに基づいて改善アクションを決めること」「決めたアクションを実行しフォローすること」という本質を維持することです。形式にこだわりすぎず、自チームに合ったやり方を見つけていきましょう。
質問:レビューの議事録はどのように管理すればよいですか?
回答:議事録は「全員がアクセスできる」「検索・参照しやすい」「継続的に蓄積される」形で管理することが重要です。具体的なツールとしては、Notion、Confluence、Google Docsなどがよく使われます。議事録に必ず記載すべき項目は、①日時・参加者、②確認したKPIのサマリー、③議論した課題とその分析結果、④決定したアクションアイテム(担当者・期限・内容)、⑤次回までの宿題事項です。特に重要なのは④のアクションアイテムです。「誰が・いつまでに・何をするか」が明確に記載されていなければ、議事録としての価値は半減します。また、議事録は蓄積することで「過去に同じ問題があったか」「そのときどう対処したか」を振り返る資産になります。タグ付けや検索性を意識した管理を心がけましょう。

